２話　魔法の実験と、隠された力

──ん？

「っていうか、魔力って何だ？まさか、魔法が使えるのか？」

　ただの数値ではなく、実際に魔法が行使できるというのか？　設定で決められるということは……これはさらにチートが確定したということではないか！　彼の胸中に、興奮と困惑が入り混じった感情が湧き上がった。

「他の人も、初期設定で決められるのか？」

　疑問が次々と頭をよぎるが、次の瞬間、さらに驚愕の項目を発見する。

「……え！？　所持金も設定で決められるの？」

　ここまできたならば、もう迷う必要はない。もちろん、これも最大で設定するに決まっている。とうぜん、無いよりあった方が良いだろ。

　だが、もしこの世界のルールが本当にそうなら……この世界、一体どうなっているのだろうか？　自由にステータスを決められるのであれば、世界全体のバランスはどう保たれているのか？　ひょっとしたら、自分以外にも強大な力を持つ存在がいるのかもしれない。

「……まぁ、普通に考えれば、こんな能力を持つのは自分しかいないと思うが、念のため警戒はしておこう」

《初期設定が受理され、設定が適用されました》

　目の前のスクリーンに、設定が適用されたと明確な通知が来た。

（え？　あの……馬鹿げたチート設定が、本当に認められてしまったのか！？　まさかなぁ……）

　しかし、この現実感が、彼に疑念を抱かせた。背筋にひやりとしたものが走る。

♢魔法の威力と新たな狩りの手段

「それで、魔法って……本当に使えるのか？」

　使い方も何も分からない。しかし、試してみるしかないだろう。まずは、害のなさそうな水や風からだ。

「水……水……」と、彼は心の中で強くイメージする。

　手のひらに意識を集中させ、頭の中で水の存在をより鮮明に描き出す。手のひらがじんわりと熱を帯びるような感覚があった。

　その瞬間──彼の手のひらの上に、ぷるんとした水球が姿を現した。透明で、光を反射してきらきらと輝いている。

「へぇ……こんなに簡単に魔法って、できるものなんだな……。さすがは能力最大値！」

　驚きを隠せないまま、彼は次にこの水球を近くの木に当ててみることにした。

　今度は、水球が木に命中するイメージを強く思い浮かべる──すると、

　ぽんっ。

　水球はふわりと山なりに飛び、木にばしゃりと当たった。水滴が飛び散り、葉の表面を濡らす。

「お、なんとか成功……。でも、これじゃ攻撃にはならないなぁ……。畑の作物に水やりをするには便利かもな……それに水浴びとか」

　木の表面を濡らしただけだ。これではまるで小学校低学年の子供が水風船を投げて遊んでいるようなもの。彼は、次に求める魔法は、もっと強烈な威力を求めた。木を貫通するくらいの力が欲しい……！

　この世界が、どのような場所なのかも分からない。自分の身を守れる程度の魔法は必要だろ。自分だけが魔法を使えるわけじゃなさそうだし。自分が使えるならば、相手も使えると考えた方が良い。

　今度は、水球をビー玉ほどのサイズまで小さくし、それを拳銃の弾に見立てる。圧縮された水弾──それを発射するイメージを頭の中で鮮明に描き……

　再び、同じ木を狙って撃つ！

　水弾は物凄い勢いで木に命中した。しかし、その破壊力は、彼の期待には及ばない。弾かれた水が木の幹を濡らす音が虚しく響く。

「やっぱり水じゃダメか……。でも、当たれば痛そうかな？」

　液体だから威力が分散してしまうのだろうか？　ならば、固体ならどうだ？

　試すなら、そこらに転がっている石がいい。ビー玉ほどの大きさの石をイメージし、狙いを定めて──撃つ！！

　ゴッ！

　石は木に命中すると、そのまま中程までめり込み、砕け散った。木からは鈍い音が響き、めり込んだ部分の木屑がぱらぱらと落ちる。

「十分な威力だ！　でも、もっと強くしたいな……」

　さらなる改良を求める彼の脳裏に、新たなアイデアが閃いた──めり込んだら、爆発。

　そのイメージを強く持ち、もう一度撃つ！！

　ズガァン！！

　石弾は木に命中した瞬間、内部で凄まじい爆発を引き起こした──木全体が激しく揺れ、地響きがわずかに伝わる。

　ミシ……メリメリ……

　軋む音を立てながら、木はゆっくりと傾き始め、そのまま地面へと倒れていった。土埃が舞い上がり、辺りに焦げたような匂いが漂う。

「……よし、実験は成功だな！」

　しかし、倒れた木を見て、彼はふと冷静になった。

「うわぁ……片付けないとな。ヤバい。面倒じゃん……」

　家の周辺を見回すと、倒れた木や、試し撃ちで砕け散った岩が散乱し、まるで嵐の後かのような惨状を呈していた。

「確かアイテムボックスに鉄の剣があったな……」

　意識を集中させると、彼の手の中に、アイテムボックスから取り出した鉄の剣が現れる。ひんやりとした鉄の感触が、手のひらに伝わった。

「よし……これで倒木を解体……って、大変じゃない！？」

　改めて見ると、木は思った以上に太く、剣で切るのは骨が折れそうだ。試しに刃を当ててみる──一応切れることは切れる。

　だが、切れ味が悪く、時間ばかりかかりそうだ。そこで、ふと思い立った。

「……剣に魔力を込めるとか、魔力を纏わせるとか……できないかな？」